
いまいちどのくらい浸透しているか定かではないですが、クリスマスといえば円卓の騎士&アーサー王伝説を思い起こすことがある方はいらっしゃいますでしょうか? うん、返事が聞こえない。
かなりのマイノリティなのは承知のうえで、あえて提唱したいホリデーシーズンの楽しみ方にアーサー王伝説をちょっとだけ入れてもらえたらいいなぁ、というのも、つい最近映画「グリーン・ナイト」を見たばかりだからなんです。
クリスマスに「首を切れ」と要求する緑の巨体の騎士に立ち向かうガウェイン卿の物語「グリーン・ナイト」


アーサー王伝説のなかでも、最も不気味かつ魔術的な物語「ガウェイン卿と緑の騎士」(タイトルだけでシビれる)をA24が映画化した作品です。
クリスマスの日にアーサー王が円卓の騎士たちと宴を楽しんでいる最中に、緑づくめの巨体の男(映画では木の髭 by トールキン みたいな見た目)が乱入してきて自分の首を切れと挑戦してくる。アーサー王の甥であるガウェインがその挑戦を受け、摩訶不思議な冒険が始まる、というストーリーです。
原作(というのか)を知っていないと多分途中から口ぽか〜んとなりそうな、何がどうなってるの? という手取り足取りの説明は一切なくて、圧倒的な映像美と幻惑で最後まで持っていったような、A24らしい映画ではありましたが、説明とか理屈とかじゃなくて魔法に飲み込まれよ、というファンタジー脳が出来上がっている人には楽しめる作品なんじゃないでしょうか。まあちょっと雰囲気偏重気味ではありましたが、単純に、久しぶりにアーサー王ものの映像作品が見られた喜びで点数が甘めになります。
私の手元にあるアーサー王物語の書籍で多分いちばん読みやすいであろう、ローズマリ・サトクリフの「アーサー王と円卓の騎士」(原書房)を読み返していたんですが、基本的には騎士としての高潔さと勇敢さをあれやこれやの突拍子もない試練で試されるというのが円卓の騎士で(けっこうハードワーク)、ガウェイン卿はこの映画の話の後も、またクリスマスに騎士としての高潔さを試されることになります(「ガウェインと世にもみにくい貴婦人」より)。
アーサー王はお祭り好きなのか、クリスマスや聖霊降臨祭など祝日があればキャメロット城で円卓の騎士を囲んで宴を開くのが恒例になっていて、そこで騎士たちに「お前らの英雄譚を聞かせろ」と、酒の場で「おもしろい話を聞かせろ」という上司の圧をかけたり、かならず招かれざる客が乱入してきて、「お前が解決してこい」と騎士たちを困らせたりする人なので(全部私の個人的意見です)、クリスマスには円卓の騎士たちの苦労を労う気持ちでアーサー王物語に触れていただけると幸いです。
アーサー王の物語を映画で見るならまずはこれ、「エクスカリバー」



「エクスカリバー」(1981年)ナイジェル・テリー主演 ジョン・ブアマン監督
アーサー王の映像化作品は数多ありますが、個人的にベスト級はこちらのジョン・ブアマン監督の映画「エクスカリバー」です。アーサー王の生涯を、目が潰れるギランギランで豪華絢爛な映像と音楽で爆盛り上げる壮大な作品で、見てる間ずっと興奮するのでへとへとにカロリー消費する楽しい作品です。
そこらへんの山師みたいな風貌の華のないアーサー王とツルンツルン頭のマーリンという正義サイドにいまいち肩入れできなくても、宿敵になるヘレン・ミレン演じる魔女モルガナと息子モードレッドの、魔法の鱗粉かけられてるような脳に直接ズゴーン! とくる目眩のような怪しさに心奪われるはず。
この映画を見たことがない人でもサントラ曲の「O Fortuna/Carmina Burana」はどこかで絶対に聞いたことがあるくらい使われまくっている超有名曲。
と、ここまでついつい茶化して書いてしまってなんだか反省したので、最後はアーサー王&聖杯伝説研究の第一人者、ジョーゼフ・キャンベル先生のお言葉でちゃんと締めたいと思います。
「聖杯物語は本来、あなた自身の心のなかの神についての物語であり、騎士の冒険物語は、かつて地上に存在しなかったものを達成すること、すなわち自己が持っているさまざまな可能性の成就なのです」