おもしろ物理学者の冗談まみれの自伝で学びを得ました

待ちに待っていた秋がやってきて涼しくなってきたからなのか、秋の夜長に読書を、みたいな記事を見かけることが多くなってきました。そんななか、本のベストセラーのラインナップが目に入ってきて、どれどれ最近の流行りはどんなもんかい、とチェックしてみたら、けっこうな割合で実用書とか自己啓発本がずらずら並んでいて驚き。みんな何か教えを求めているのですね。

そんな私も最近ちょうど読んでいる途中の本で「教え」を得られました。1985年に出版された、ノーベル物理学賞を受賞した物理学者リチャード・P・ファインマンさんの自伝エッセイ「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(岩波現代文庫)です。

この数式だらけの黒板の授業、一度は憧れる image via Nature

ファインマンさんはアメリカ人の物理学者で、量子電磁力学の創始者であり、その発展に寄与した業績が評価されて1965年にノーベル物理学賞を受賞されています。マンハッタン計画にも参加し、コーネル大学、カリフォルニア工科大学の教授職を経て、1988年お亡くなりに。

ファインマン・ダイアグラムという素粒子物理学の世界では基本になっている粒子の反応を記した図を発案していて、説明読んでもまったく凡人の私には理解できなかったくらい、とにかく天才中の天才のファインマンさん。そんな彼が、子供の頃から学生生活を経て教授となった日々を軽妙かつユーモラスに描いた自伝を発表しました。

すんごいお堅い真面目一辺倒の内容かと思いきや、めちゃくちゃ読みやすいうえに、起きる人生のハプニング(とにかくハプニングが多い!)を飄々と面白おかしく描き、ひょいひょいっと難問をこなしてしていくので(失敗してもそうは見せない)、ニヤニヤしながら読んでしまいます。

とうぜん物理学や数学に関する内容も多いけれど、知識が乏しくても大丈夫。それが活かされるのは、たとえば原爆に関する機密書類をしまっている金庫の鍵破りだったりするので、ほんとに「ご冗談でしょう、ファインマンさん」のタイトルまんまのことが起きます。

ひとつの分野に閉じこもらないで知らない分野にも恐れず飛び込むし、どんなに権威のある人にも臆せずに意見を言うし、常識と思われているやり方をまずは疑ってかかる、というファインマンさんの姿勢に膝を打ちまくりましたが、なかでも目から鱗の、私がガツーン! ときたエピソードが「お偉いプロフェッサー」。

大学の授業の準備で精魂つき果てて、アイデアも枯れているのに、突如飛び込んできた破格の待遇のオファーに喜ぶどころか、期待に応えられるかどうかわからなくて憂鬱になるファインマンさん。

いくら人が僕はこういう成果をあげるべきだと思い込んでいたって、その期待を裏切るまいと努力する責任などこっちにはいっさいないのだ。そう期待するのは向こうの勝手であって、僕のせいではない。(中略)自分は自分以外の何者でもない。他の連中が僕をすばらしいと考えて金をくれようとしたって、それは向こうの不運というものだ。

こんな考え方はまったく思いもつかなかったので、またしても強力に膝を打ちました。そうか、ついつい人の期待に応えようと必要以上に頑張っちゃうなんてしなくていい。ガッカリされてもそれは他人のせい、という他責思考、素晴らしい。ちょっと気が楽になりますね。

今まだ上巻を読み終わったところで下巻に突入なのですが、さらに続編があるそうで、そのタイトルが「困ります、ファインマンさん」。

吹きました。ファインマンさんが周りを困惑させつつ笑顔にしている様が目に浮かびます。

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