本当は、見た後にとってもいい気持ちになって終わる可愛らしい映画が見たいのに、どうしても見てしまうのが、「ひえー!」「ぎゃーっ!」「やめてー!」と思わず叫んでしまうホラー映画ばかり。もしかして集中力が低下してきているので、定期的に悲鳴の刺激がないと目が開かないのかもしれない、と考えると震えが。
それはともかくとして、最近見てしまった秀作ホラー映画、だんだんと暑くなってきた日々に背筋を凍らせてみるご参考になれば幸いです。
「バーバリアン」(2022年) ジョージナ・キャンベル主演 ザック・クレッガー監督
民泊で予約した宿泊先の一軒家に着いてみたら、すでに先客の男性がいてダブルブッキングが発覚するも、仕方なく1泊だけ泊まることに決めた女性が朝起きてみると男性の姿がなく、家中を探して回ると謎の地下室を発見することになる…。
最初は、やたらとキモいムーブを重ねる男性客(あのビル・スカルスガルド)が怪しすぎて、サイコパススリラーか! と決めつけて見ていたら、途中からどんどん「あれ?」という予測していなかった方向転換がやってきて、まさに「ぎゃー!」と叫ぶ直球のホラー展開が待ち受けてました。なんか気持ち悪い、嫌な怖さが好きな方には特におススメ。面白かったです。
「コカインベア」(2023年)ケリー・ラッセル、シェア・ジャクソン・Jr.主演 エリザベス・バンクス監督
実際に起きた事件から着想を得て作られたことがまずスゴいですが、コカインが大量に詰まった積荷が事故で森に散乱。クマがそのコカインを食べてしまってハイになり暴れまくるパニックホラー映画です。
とにかくクマの暴れっぷりが豪快(フィクションなんで許してください)かつ凶悪で「そこまでやるのー! ひえー!」と叫ぶゴア表現が遠慮なくてんこ盛りなので、そういうのが苦手な方はすみません。いろんな思惑で森に集まってきてしまった人間たちのほうはアホ揃いという構図で、暴力笑い暴力笑いの繰り返しです。B級映画、かくあるべし、な作品でした。
Torso(1973年) スージー・ケンドール主演 セルジオ・マルチーノ監督
「影なき淫獣」というヒドい邦題がついているのですが、70年代イタリアのジャッロ映画です。ミラノで大学生がバラバラに切断される殺人事件が相次いで起こるなか、同じ大学に通う女学生たちが休暇で訪れたヴィラで惨劇が起きる。
若い綺麗な女性たちが田舎の屋敷でキャッキャとはしゃぐサービスシーンの牧歌的で美しい映像から急転して鮮血の館と化す展開がとても素晴らしかった。たった一人で殺人鬼と閉ざされた空間で対決する終盤の緊迫感も息が止まるレベル。そして殺人犯の動機が「んなアホな!」と叫ぶ謎の歪みっぷりで100点満点。大満足しました。
「呪われたジェシカ」(1971年) ゾーラ・ランパート主演 ジョン・ハンコック監督
アメリカ、コネティカット州の田舎町に静養にやってきた主人公ジェシカの周りで不可解な現象が起き、この怪奇現象の原因となる昔の事件に辿り着くも、だんだんとジェシカ自身の精神も崩壊していく…というサイコホラー映画です。
自然豊かな田舎ののんびりした雰囲気から徐々に変なことが起きる感じとか、田舎町の嫌〜な閉鎖感とか、狂っているのは周りか自分かわからなくなる、最後までモヤモヤがあまり晴れないホラー、大好物です。こういう田舎町で起きるホラーをFolk Horror(フォークホラー)と呼ぶみたいで、田舎の別荘地なんかで夏にフォークホラー映画祭とかやってくれたら最高だなー。
「関心領域」(2023年) クリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー主演 ジョナサン・グレイザー監督
あんまり解説とかあらすじも知らずに、できれば映画館で見たほうがいい作品かもしれないと思いました。アウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす収容所所長一家の生活を描きます。
静かに不気味な映像美も素晴らしかったけれど、とにかく音がすべてかもしれないくらい、聞き逃してはいけない、けれど耳を塞ぎたくなるような音に、こちらの精神が耐えられない瞬間がずっと続きます。
ポスターのように、すぐ隣で起きていることすら真っ黒になるくらい見えない聞こえない、関心の外に置くことができるのに、それが海の向こうで起きていることだったとしたら、どれだけの人が関心を向けることができるんだろうか、怖くなりました。