昨今日本を騒がせているハロウィンの起源が、古代ケルト民族のお祭りだという話はもうすっかり知られていると思いますが、海外の宗教的なお祭りをただのコスプレパーティにして馬鹿騒ぎしやがって、とお怒りの方が多いみたいですが、当の海外でもけっこうコスプレパーティ化しているのを知っているのでそのへんは大目に見て優しい気持ちをお願いしたい。

特に海外セレブがハロウィンのたびにコスプレ姿を競い合ってパーティやるのが恒例化していて、なかでもこのハイディ・クルムの仮装は毎年すごい力の入れようで、こちらが今年のバージョンで孔雀です。笑っちゃうくらい、すごい。
アイルランド文学復興を支えた翻訳家、片山廣子
しかしそんなことはどうでもよくて、ケルトの話がしたいのでした。つい最近、タイトルに興味をグワっと惹きつけられた1冊、「片山廣子幻想翻訳集 ケルティック・ファンタジー」(幻戯書房)が素晴らしすぎていまだ興奮しております。


明治11年外交官の家の長女として生まれ、結婚後は歌人として作家として、そして翻訳家として主にアイルランド文学やケルト神話を始めとする幻想文学の翻訳で高い評価を得た、片山廣子(翻訳の際にペンネームとして松村みね子という名前も使用)の代表作を編纂した作品集です。
インド、ヒンドゥー神話を基にした「印度風奇譚」、スコティッシュ・ケルト幻想文学「かなしき女王」、アーサー王伝説に基づいた夏目漱石初期の作品「幻影の盾」の現代語訳、アイルランドの民話、そして晩年に書かれた随筆集「燈火節」の抜粋が収められています。
どれも数ページほどの短編が並んでいるのですが、短いながらも幻想世界が濃霧のように立ち込めてクラクラするほど美しく怖くて哀しい物語ばかりで夢中で読み耽りました。
三島由紀夫をして「この『かなしき女王』といふのが希代の掘りだしものです。訳が実に美しい文章で、物語も実に繊細で純心でロマンチックなものです」という感想を当時残していたそうで、三島先生そのとおりです!
神話やファンタジーのときに主流となる運命論は正直言うと個人的に反対の立場なのに惹きつけられるのはなんでなんだろうなぁと、今回この本を読んで納得できたのが、とくにケルト神話に顕著な、すぐ目の前にある自然現象や事象を、神様や精霊のいる世界として別の視点から捉えるその想像力に惹かれてるんだと、片山廣子さんの美しい詩のような翻訳文から感じることができたのがほんとよかったです。
エッセイスト・クラブ賞を受賞した名随筆集「燈火節」

さらに随筆集である「燈火節」から数編がセレクトされて掲載されているのですが、こちらも素晴らしく、エッセイストとしての才能にも驚かされました。
イヴよりも先に最初の女として生まれたリリスがその日暮らしを繰り返し、ある日ため息をついて海辺に消えていったことから話を始めて、
「私は今日の貧乏生活が非常にありがたく新しいものに思われ出した。裸かのまずしい日々に、何か希望を持ち、そして失望し、また希望をし工夫をし、溜息をし、それを繰り返しくり返して生きることは愉しいと私は急に元気が出た」
燈火節「古い伝説」より
と締めくくっていて、とても素敵だなぁと思いました。また同じく聖書のアダムとイヴの逸話から、
「イヴは海の波を自分の血の中に隠したきりで、それは出さなかった。それから世界の女たちが、無数の女たちが、家もなく波のようにたよりなく生きているのである。女が代々に受け嗣ぐものは海の波のように塩からい、あるものは血の中に海の塩を交ぜてしずめがたい煩悶(もだえ)をもち、或るものの心にはたえず波が立ち、また或るものは家を捨ててさまよい、さまよい、一生を終わる」
燈火節「四つの市(まち)」より
上流階級の出ではありながら夫に早く先立たれ戦後はつましい暮らしをしていた彼女は、女性の自由がない社会を嫌っていたということも書かれていて、女の息苦しさをこんな教養あふれる美文で表現できることに震えました。
絶海の孤島アラン島のアランニットにはケルト紋様が編み込まれている


アイルランドの辺境の島について書かれたジョン・M・シングの紀行文「アラン島」についてもエッセイで触れていて、不勉強ながらこの本はまだ読んでいなくて(次に読もうと思います)、思い出したのが、同じ島を扱ったドキュメンタリー映画「アラン」は大昔に見たことがあって、過酷な自然環境のなかで生きる人々の姿に感銘を受けたのですが、そのなかで人々が着ていたニットがAran Fisherman’s Sweaterと呼ばれていて、映画公開後に人気になったと聞きました。日本でもアランニットでピンとくるかもしれませんが、防寒防水ばっちりで、きれいな編み模様が特徴。


この可愛い編み編みはケルトの伝統的な紋様デザインがルーツだと今頃気づいて「マジか!」と興奮しました。ケルト紋様ひとつひとつに意味があるのはもちろん、ニットのほうにも代々受け継がれてきた家ごとの網み模様のパターンがあるそうで、Clan Aran Sweaterとしていろんな家のニット売っていました。これから寒くなる季節、欲しくなる!