まだまだ残暑が厳しくて「外出しようかなぁ〜」なんて思っていても、ドアを開けた途端の熱気に心と身体が秒速で拒否してしまう、そんな今日この頃、家でひさびさにビンジ・ウォッチングしたのが、シーズン途中で視聴が止まっていたアマゾンプライムのオリジナルドラマ「マーベラス・ミセス・メイゼル」を最終シーズンまで駆け抜けました。
「マーベラス・ミセス・メイゼル」(2017年〜2023年)全5シーズン
1950年代ニューヨークに住むミッジ・メイゼルの幸せな専業主婦の生活が夫の不倫で突如崩れ落ちるも、スタンダップ・コメディアンとして新たな人生を歩み出す姿を描いたコメディドラマで、つい最近完結したばかりの全シーズン5。
裕福かつインテリなユダヤ人家庭に生まれたミッジは基本的にはお嬢様で、洋服が大好きで毎回彼女が着る50年代らしいカラフルでトータルコーディネートされたファッションは眼福もの。しかし50年代というのは、とにかく女性の身だしなみに異常なくらい完璧さを求める時代でもあって、息苦しさを感じたりなんかもします。とはいえ、下品なジョークもあけすけにバンバン言って親を卒倒させたり、女性であることで受ける不利益に気丈に立ち向かい、TV出演のキーを握る人物に「あなたと寝たら成功が自分の才能かどうかわからなくなる」ときっぱり断るシーンがあったりしてジ〜ンときます。
不公平な社会システムのなかでの女性の自立を描いた物語であり、またかつて華々しい活躍をした男性コメディアンの没落や、ミッジのコメディアンとしてのスタートの場にもなったナイトクラブ、ガスライトのオーナーの死を通して、スポットライトの影の部分にも温かい目線を送る物語もあって心底感動&落涙(ジョン・ウォーターズがゲスト出演してる回も良かったなぁ)。
いいドラマの証明といえば主人公以外のサブキャラクターに愛すべき人々が出てくることですけど、とにかくミッジのマネージャー役のスージー・マイヤソンが最高の一言。文字通り惚れ込んだタレントのために手練手管を使って奔走し、ときには失敗もしたり、才能はあってもどうしようもなくダメな部分もあるキャラクターがたくさん出てくるドラマで、そんな彼らを最後まで見捨てない優しい光がいつも当たっているような素敵な物語が多かったなぁ。泣く!
海外ドラマはシーズン最後になるとグダグダに、という定説は全然当てはまらない、最初から最後まで気持ちいいくらい完成された物語で、画面に向かって拍手送りたくなった! ブラボー。
「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」(2022年)キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン主演 マリア・シュラーダー監督
Me Too運動のきっかけにもなった2017年のニューヨーク・タイムズによる大物映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインの性暴力事件を告発した記事の一部始終を映画化した作品。あれこれ言わずにまずは見て、と思いますけど、タイトルのShe Said(彼女が言った)がズシ〜ンと胸に刺さる、勇気を持って暴力にNoと叫んだ最初の女性たちがいなければ、世界はいまだに暗黒のままだったと思うと震えがくるし(日本の現状も)、社会が変わるためにはその勇気ある声が必要で、被害に声を上げた人々がちゃんと報われる社会が来ることを心底願います。
「THE LAST OF US」(2023年)ペドロ・パスカル、ベラ・ラムジー主演 シーズン1
PS4のゲームが原作のHBO制作のドラマで、謎の菌の異常発達で疫病が蔓延し文明が崩壊した世界で、人類の命運をめぐって繰り広げられるサバイバルアクションドラマ。じつは私、このゲームやったことがありまして、人生ベストゲームのひとつになったくらい個人的に激震が走った作品で、それが実写化するとな!? と驚き半信半疑で見たんですが、さすがHBOしっかり100点満点に仕上げてきました。とはいうものの、そのまんまやないかい! というツッコミも入れたくなるくらい、ほんとにゲームを忠実に再現していて(多少付け加えがあったくらい)、原作のゲームがいかにすごかったかの証明になっているという。
基本ゲームってバンバン撃ったり攻撃したりして進んでいきますけど、その行為や選択の先にある結果を突きつけられるんですよ。「あれ、これほんとにこのままやってていいのかな…?」と自分のプレイに疑問が植え付けられて、考えもなしにやっていたことが怖くなるというか、自分の善悪の物差しが揺るがされるという初めてのゲーム体験に心が穿たれ、なんとも言えない気持ちでゲームをクリアしたのは、この作品が最初で最後。それぞれの人の選択の結果に心がえぐられる、ズド〜ンとくる物語が見事に再現されたドラマでした。
「別れる決心」(2022年) タン・ウェイ、パク・ヘイル主演 パク・チャヌク監督
夫が事故死した事件を捜査する刑事が、謎の多い未亡人に惹かれ始めて、泥沼へと入り込んでいくサスペンスロマンス。言葉以外で交わされる目線や空気のやりとりが二人の気持ちを表現する、画面がすべてを語るスタイルで終始物語が進んでいくので(個人的には好み)、「結局なんだったの?」みたいな謎が残されるも(私の理解力が乏しいというだけの話かもしれないけど)、静かに飲み込まれるような妖しい靄のような雰囲気が最高に素敵。
余談。ドラマ「THE LAST OF US」の1話のラストに流れる曲が、これ聞いたことあるけど誰だっけ〜!? となって調べたら、この曲でした。80年代ニューウェーブバンドのデペッシュ・モード。自分のなかではデペッシュ・モードはダサいバンドという区分けがされていて(勝手すぎる!)、なぜかというと、自分の母親が好きだったからという、これまた最高にダサい理由によるものです。そういう時期、ありませんか? 謎の自意識で親とかが好きなものを無条件に嫌うのがカッコイイと思い込む、クソダサ思春期のことを思い出してしまい、顔が真っ赤になりました。当時、母親が好きだったU2とかボスことブルース・スプリングスティーンもダサいと思ってたんですけど、デペッシュ・モード改めて今聴いたらぜんぜんダサくない! ごめんなさい。