1枚の画像からフォークロアよもやま話が溢れ出て

中身が麦わらでできた女性の人形

またしてもネットをうろうろしていたら出会った「なんじゃこれ」画像の新作は、不気味だけど引き込まれる美しさのある、中身が麦の穂で作られた女性の人形。なにかしらのアート作品かと思ったら、Corn Dollyというもので、キリスト教以前の土着信仰(ペイガニズム)としてヨーロッパに広く浸透していた収穫祭の一種。主に小麦などの作物には”The Corn Spirit(穀物の精霊)”がいると信じられていて、収穫してしまうと精霊の住む場所がなくなってしまうので、次の年の植え付けまでの間、小麦の穂などを編んで作ったCorn Dollyに棲家を移してもらって豊穣を保つという民間信仰だったようです!

ドレスを着た小麦の人形、Kern Baby

The Harvest Home “Kerr Baby” of 1901. Whalton, Northumberland. 1902. The Benjamin Stone Collection

1901年にBenjamin Stoneがイギリス各地の珍しい祭りを記録に残すために撮っていた写真のひとつで、ノーサンバーランド地方で行われていた、収穫の最後に残った小麦にドレスを着せたり花を飾って人形にして、それをKern Baby、もしくはHarvest Queenと呼んで豊作を祝ったとされます。

さまざまな形があるCorn Dolly

corn dollyの地方によるいろんな形をイラスト図解 image via The Museum Of British Folklore
2020年に開催されたcorn dollyの展覧会 image via The Museum Of British Folklore
kern babyも近くで見るとちょい怖い! image via The Museum Of British Folklore

Corn Dollyは地方によってさまざまなデザインや大きさがあって、上述の人形型のものがメインというよりは、小型のオーナメントみたいなもののほうが主流だったようです。

シンプルなものからクルクル目が回りそうなくらい凝ったものまで、ほんとに他にもさまざまな形があって載せきれないくらいのバリエーションの多様さがすごい。地主の家や納屋に飾られていたそうです。19世紀終わり頃には廃れていった風習だそうですが、1960年くらいに再ブーム(というのか?)がやってきて、作り方の書かれた本なども出版されたそうです。

Corn Dollies (1950)

実際にcorn dollyを作っている人の動画も見つかりました。普段は庭師をやっている英国エセックス州のFredさんのお家はcorn dollyだらけ。眼帯とクラフトの合体が素敵!

英国各地のフォークロア祭りに話は変わり

そんなこんなでCorn Dollyについて調べていたら、いつの間にかたどり着いたのが英国の地方のフォークロア祭り。

グリーンマンと祭りの行列
ブラッドフォード・オン・エイヴォンのグリーンマンのお祭り image via Calendar Customs
ブリストルのジャック・イン・ザ・グリーンのお祭り image via Calendar Customs

5月1日に緑や花が咲く暖かな夏の日の到来を祝うお祭り、May Day(5月祭)が英国各所で行われるんですが、そのお祭りの様子がこちら。円錐の緑の化け物(ひどい!)みたいなものと楽団が一緒に音楽とともに行進して、踊りを楽しんだりするそうです。場所によってGreen Man FestivalとかJack In the Greenなど呼ばれていて、全身緑の円錐がJack In the Greenで、18世紀頃から存在するMay Day(5月祭)の中心キャラ(というのか)です。

グリーンマンの彫刻とグリーンマンの扮装をした男性
教会に彫られたGreen Manの彫刻 image via Bradford on Avon Green Man Festival グリーンマンの扮装(クオリティ高い!) image via Atlas Obscura

そしてGreen Manというのは中世ヨーロッパの教会の壁などに彫刻として彫られたモチーフで、顔や口などから緑が生えていて(ちょっとキモい)、再生と春の芽吹きを意味するシンボルとされているみたいです。

ざっくり5月祭の夏の緑の到来を祝う祭りに、同じ緑ってことでGreen Manも便乗して(?)、一緒に祭りやっちゃおうよ〜! と、Jack In the GreenとGreen Manの扮装をした人々が街を練り歩くみたいです。

Corn DollyもGreen Manも、こういう土着の民間伝承(フォークロア)ものの、ちょっぴり不気味可愛いさは大好物なので1枚の画像からどんどこ繋がって大満足しました。

グリーンマンの驚きの真実

チャールズ国王の就任式インビテーションカード

しかし最後にびっくり仰天のどんでん返しというか、今年の5月に行われたチャールズ英国国王の戴冠式の招待状(画像上)にGreen Man(一番下中央の緑の顔)が描かれていてちょっとした物議を醸したという記事を発見。英国王室はアナウンスメントで、「古代から続く英国フォークロアの春と再生のシンボル、Green Manは新国王の新たな治世を祝うものです」と書かれていたんだそうですが、そこに歴史家やフォークロア研究家たちが総ツッコミを入れていて、なんと、Green Manに関する諸説は全部20世紀に創作された根拠のないもので、フォークロアとなんも関係ないです〜! というもの。

な、なんだって〜。学者のちゃんとした話によれば、確かに中世ヨーロッパの建物にGreen Manの彫刻は彫られているんだけど、それは彫刻家の間で流行っていたデザインモチーフでなんら伝承や神話とはまったく関係ないものなんだそうです。日本でいう江戸しぐさみたいなものだったとは、口あんぐり。

ちなみに招待状のGreen Manは頭に、どんぐりがてっぺんにあるサンザシの冠を被っているんですが、それは学者によれば「This is very, very closely associated with witchcraft and paganism in the U.K. (これはめちゃくちゃ魔術と異教信仰に関係してるんですよ!)」と興奮してて、たぶんチャールズ国王自身は「自然大好き」なだけでGreen Man、緑、いいじゃないか…と採用しただけなんだろうけど、正統的なキリスト教の価値観と対立するであろうイメージを使っていることを歓迎する人々もいたり、なかなか面白い事態になっていてびっくりしました。私ももちろん魔術という単語に大興奮。自分の国の代表が魔法を公認してくれるなんて、最高です。

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