
なにか上手く言葉にはできないんですけど、猛烈に心と脳に訴えてくるような強烈な一撃をびしゃ〜んと浴びる瞬間がある映画、時たま出会うんですが、これこそ最高の経験のひとつです。最近それを感じた作品が続いて、思い出しては「いいもん見たなぁ」とほくそ笑んでいます。




「燃ゆる女の肖像」(2019年)ノエミ・メルラン、アデル・エネル主演 セリーヌ・シアマ監督
ずっと見たかった映画のひとつでやっと今見たんですけど…震えた! すべてのシーンが息を呑むような美しさと、押し殺しながらも張り詰めて爆発しそうな感情の流れに圧倒されます。18世紀フランスの貴族の娘とその肖像を描く女性画家の物語で、孤島の閉じ込められた空間にたった3人の女性だけで描く、静かな嵐。セリフではなく、目線、ほんのちょっとした触れ合い、息遣い、風景ですべてを語るゆえに、写る画すべてが濃厚。なかでも、タイトルのとおりほんとに燃える女性のシーンが魔術的に美しくて私も卒倒です。とりあえず今年見たなかでもベスト級。
で、この燃える女性の画で、ふと気付いてしまったんですけど、私、燃える人間の出てくる映画にめっぽう弱いのかもしれない、と。異常に好きな映画(個人的に偏愛してるという意味で)思い返せば、「ウィッカーマン」(1973年)がありまして、あれは人型の巨大木像が燃えるんですけど、グワっと心持っていかれましたし、最近では「セイントモード」も最後主人公が燃えるんですけど、これにもヤバいってぐらい心ザワザワしましたし、なにより大好きなクリストファー・リー様のドラキュラシリーズの傑作といってもいい(もちろん個人的評価)「血のエクソシズム」(1970年)。


ラスト、炎に包まれたドラキュラ伯爵がゆっくり炎とともに回るシーンに息が止まりましたもん。1968年の「帰ってきたドラキュラ」もオススメなんですけど、ハマーフィルムのドラキュラはどの作品もハッとするような美しさがあって素晴らしいです。
燃える人間の絵が好きとか、犯罪者予備軍みたいなこと書いてますが、あくまでもフィクションのなかにおける隠喩としての炎表現が好きということでお願いします。



「デュエル」(1976年) ジュリエット・ベルト、ビュル・オジェ主演 ジャック・リヴェット監督
パリを舞台に、地上で生きる権利を得るために魔法のダイヤモンドをめぐって決闘する太陽の女王と月の女王の物語。摩訶不思議な出来事や人々が次々と現れ、何がどうなっているのかわからなくなっても、考えるな感じろ(「トップガンマーヴェリック」より)な、クラクラするようなマジカルな映像の連続でズド〜ンと撃ち抜かれました。こういう日常のなかにファンタジーがするっと入り込んでくる物語、大好きです。



「ラブ、デス&ロボット」(2019年〜) ティム・ミラー、デヴィッド・フィンチャー製作総指揮
こちらは映画ではなくて、Netflixの短編アニメシリーズで、シーズン3まで公開されています。シーズン1の頃から「アニメ表現もここまできたか」と恐れ慄いていたぐらい、2Dから3D、手書き風から実写風CGまで、現在実現可能なアニメーション表現のすべてがそろったかのような、ありとあらゆる手法で、さまざまな国や監督が関わった短編作品集。毎シーズン、ワクワクするくらい面白い作品ばかりだったのですが、最新シーズンで発表された「彼女の声(Jibaro)」がすごすぎて、いまだに腰を抜かしたままです。中世の騎士が湖で出会った黄金の女に狂わされていく様を描いた17分の作品。実写?と見紛うほどの映像に、実写ではありえない圧倒的な幻想と奇怪が襲いかかってきます。なんかすごいもの見た…としばらく呆然とするはず。