ずいぶん昔に見たっきり、いい映画だったよなぁ~というぼんやりした印象だけは残っていたアッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」を見直したら、吐くくらい感動したので改めて心に刻んでおきたいこの名作。歳をとってから見ると親目線になるのかわからないけれど、もう出てくるすべてが愛おしく思えて息苦しくなるくらい心を揺さぶられました。
「友だちのうちはどこ?」(1987年)ババク・アハマッドプール主演 アッバス・キアロスタミ監督
イランの田舎の小学校で、隣の席に座る友人の宿題ノートを間違って家に持って帰ってしまった主人公が、ノートを返すために友達のうちを探してひたすらさまよう物語。ただ友達にノートを返すために走り回る少年を追っただけのストーリーなのに、一生懸命な子供とひたすら日常をこなす大人とのやりとりのすれ違いのおかしさやじれったさが絶妙で、まったく飽きさせない、どうなるんだろう、どうするんだろうとひたすら物語に惹き込まれます。そして、とにかく主人公の友達への純粋な思いやりに、「お前は最高にいいやつ~~~!」と心から叫んでギュウ~~ッと抱きしめてあげたくなる愛らしさ。そしてラスト、さりげない映画的な演出で終わるんですが、これがもうグワッと心が温められる素晴らしいエンディングで感動死しました。殺伐としたSNS社会に辟易した人はぜひこの作品を見て、人が人を思いやることは難しいことでもなんでもない、当たり前のことなんだ、という心を取り戻せるはず。
あと、風景の美しさも飛びぬけていて、わけてもお家のデザインとか室内の刺繍のあれこれが可愛すぎて、ただでさえ素晴らしい作品をさらにヤバイことにしています。
「子供たちは見ている」(1943年)エミリオ・チゴリ主演 ヴィットリオ・デ・シーカ監督
「自転車泥棒」のイタリアの巨匠ヴィットリオ・デ・シーカが描く大人の勝手な都合で人生を振り回される子供を描いた作品。親の離婚問題を子供の目から描くってのはたくさん作品ありますけど、けっこう初期にこんなにリアルに描いてたんか~と感心しちゃいました。あと、親が不倫して離婚というと、大抵男親が不義理をして子供を母親に預けるてなパターン多しなのに、この作品は母親が不倫を繰り返していて、さらに子供の世話は男親任せという逆パターンなところも良かった。必死に親の愛を繋ぎとめようとする子供の物言わぬ瞳が多用されていて、もうこっちは胸が潰れる~~。とてもシビアで救いのないようなお話ではありましたけど、静かに心を揺さぶる名作。
「雪の峰」(2021年) アドリアン・ティティエニ主演 ダニエル・サンドゥ監督
ルーマニアの映画で、雪山で遭難してしまった息子を救うために奔走する父親の姿を描いた作品。極寒の雪山で救助隊も捜索を諦めかけるなか、父親だけは息子の生存を信じて、ありとあらゆる方法で救助を続けようとする、その親子愛を描いた感動作か…?と思わせておいての、この父親が財力と地位を横暴なまでにふるって、自分の息子のことだけを最優先にして他人はただの動く駒としか思っていない、傲慢極まりない人物なところがスゴかった。見ているうちにこの父親のことを全員が嫌いになっていくこと間違いなし。そのまったく感情移入できない、善人でないかもしれない人物を主人公にして、運命の皮肉さを突き付けるラストにやられた~と思いました。なんともいえない哀しい余韻を残して終わります。