世界は優しくない

赤いスーツを着た父親と子供たち

最近見た映画で立て続けに世界の辛さを叩き込まれました。でも、辛いけど見てよかったという作品2作。人間の業とか世間の軋轢など、いろいろ面倒くさい感情に悩まされながらも出口を見つけ出そうとするような、いろいろズシーンとくる映画です。

トム・フォード監督「ノクターナル・アニマルズ」

アートギャラリーのオーナーである主人公のもとに元夫が書いた小説の草稿が送られてきて、その小説が劇中劇として挟まれ、現実世界での話も同時進行していくうちに、主人公と元夫との過去、そして元夫が書いた小説の意味が明かされていくというミステリー仕立ての作品。さすがトム・フォードといえるクールな映像美が冴えわたっていて(主人公役のエイミー・アダムスはやや化粧が濃すぎ~でしたけど)、埃ひとつない硬質な美しさを放つ主人公側と、かたやアメリカ南部を舞台にした小説舞台は汗と埃にまみれた泥臭い世界を描いて、2人の世界の対立を表現してて上手いなぁと。オープニングからしてどえらいものが始まる~と直感しましたが、映像も構成もお見事でした。元夫が書いた小説の意味がハッとわかった瞬間、ものすごく意地悪な映画のラストが何倍にも効いてきて、トム・フォードの人間の業への理解の深さに感服いたしました。

「はじまりへの旅」(Captain Fantastic)

馳夫アラゴルンことヴィゴ・モーテンセン主演の映画。予告編からちょっと笑えて風変わりな家族映画かな~と期待して見たら、予想とは違って物悲しく大いに考えさせられる映画でした~。現代の資本主義社会に背を向け、独自の哲学で森の中での自給自足の生活を選んだ家族が、母親の死をきっかけに外の社会と関わることによって大きな変化を迎えていく、という物語。しょっぱなから食料調達として野生のシカをナイフで殺るシーンから始まり、夜は焚火の周りで「カラマーゾフの兄弟」を読んだり、お父さんがアコギでメロディを弾き出すと子供たちも思い思いに楽器を持ち出してセッションが始まるという、意識高すぎ晋作、本気のインテリヒッピー生活が繰り広げられます。そして訓練と称してビリーズブートキャンプ(古い)も真っ青の命がけのトレーニングしたかと思えば、合衆国憲法を丸暗記したり、ひも理論を説明せよ、とお題が出たり、このお父さん、ヤバすぎ。そうとうな身体&サバイバル能力、高い教養に恵まれたスーパー家族ではあるのですが、しかし外の社会と隔絶されすぎていて、一歩外に出ると子供たちは変人扱いを受け、もちろん周囲の人々(特に身内)から理解を得ることもできない。

たまにTVで離島や廃村に移り住んで自給自足に近い生活を送る家族の番組とかあって、つい親のエゴに付き合わされる子供が可哀そう、なんて思う側だったのですが、この映画を見たあとは、確かに親の正義や哲学によって極端な状況に置かれる子供たちはいるけれど、最終的には子供たちが選ぶ道を用意してあげることが大事なんだなぁと思うように。

自分が正しいと思ったことが逆に子供を不幸にしているんじゃないかと気づくお父さんが家族を失った悲しみに暮れるシーンはかなり辛いものがあって、正直これまでヒッピー的子育てに悪感情しか抱いてなかった私でも泣きました(笑)。親は親で子供をちゃんと大切に思っていても間違うことがあるし、結局は子供の力を見くびってはいけないというか、子供たちの決定権を奪うことだけはやめようね、という結論に至りました。

そしてアメリカですら世間と違う道を選ぶことの困難さがあることを悲しく思うと同時に、こういう映画があることで、違う生き方を選ぶことや寛容であることの大切さも学べるといいなあと。

しきりにお父さんの教育に文句書いてきましたが、好きなシーンは、子供たちと合言葉のように叫ぶ「Power To The People(民衆に力を)」とか、「権力にNOを」というシーン。いい教育してるじゃん、と(笑)。あと、洋服や小物など細かい美術がとても可愛くてチャーミングなところも好き。

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